やはり広域処理は必要なかった!
私たちが前々から言っていたことがやっと正論として報道されるようになりました。
2013年3月11日(月)日経ビジネスより
今回は長いですが、こちらに全文記載させていただきました。
『消えた震災がれきの謎』
石渡 正佳
東日本大震災の発生から2年がたった。
筆者は震災直後から6度にわたって東北地方のがれき処理の状況や復興の状況を現地調査し、復興がなかなか進まない現状を見てきた。国や自治体がこれまで明らかにしていた震災がれきの処理状況もはかばかしくない。
まだ現場の混乱が続いていると思いきや、今年2月22日に環境省が発表した震災がれきの処理進捗率は、岩手県38.8%、宮城県51.1%、福島県30.9%、東北3県合計46.3%で、数字の上では急進展している。宮城県はわずか2カ月程度で20ポイントも進んだことになる。
何か数字のマジックがあるのではないかと思い、2月末に再び東北を訪問した。
被災地を回ってみてまず驚いたのは、震災がれきの処理が目に見えて進展していたことだ。岩手県と宮城県の現地を見るかぎり、どの被災地でも震災がれきの撤去はほぼ完了していた。一次仮置き場に十数メートルの高さに積み上げられていた震災がれきもすっかり消えていた。
環境省発表の数字の上では、未処理の震災がれきがまだ半分残っているはずなのだが、一次仮置き場の震災がれきはどこに行っても見当たらず、二次仮置き場(仮設処理施設)で見られる震災がれきの山も小さかった。震災がれきを満載して走るダンプトラックの数も減ったように感じた。現地では環境省発表の数字以上に処理が進展しているという印象を受けた。
震災がれきは、どこに行ってしまったのか。それを考える前に、これまでのがれき処理の状況を振り返ってみよう。
進んでいなかったはずのがれき処理
震災発生直後、阪神淡路大震災を超える莫大な量の震災がれきの発生に、国も地方自治体も途方に暮れた。その量は東北地方の中核都市の通常年の一般廃棄物発生量の30年分とも100年分とも報じられた。震災がれきの処理責任がある市町村の対応能力を超えていることは明らかだったため、国直轄処理、県委託処理、広域処理協力など、さまざまな支援措置が講じられた。
しかし国直轄処理は民主党政権の方針が二転三転して迷走したあげく、鳴り物入りで「がれき処理特別措置法」が成立したものの、国に期待を表明していた宮城県は既に時機を逸していて見送りとなり、福島県の2市町村で3基の焼却炉が建設されるにとどまっている。県委託処理は宮城県の12市町、岩手県の7市町村が参加したものの、用地買収の遅れなどから本格的に立ち上がったのは震災後1年以上過ぎてからだった。広域処理協力は環境省の依頼に応えて東京都をはじめ多数の自治体が受け入れ表明し、当初は義勇軍の様相を呈したものの、放射能拡散懸念から住民に拒絶されて頓挫する例が相次ぎ、被災地での域内処理の体制が整ったため、現在はほぼ手じまいとなっている。
筆者も震災直後の現地を訪れたとき、莫大な量の震災がれきや津波堆積物を目の当たりにしてあ然とし、広域協力による早期処理(2年間で処理終了)の必要性を訴えた。
震災1年後の昨年3月の時点では、処理が順調に進捗していたのは仙台市だけだった。宮城県が計画した29基の仮設焼却炉はようやく一部が試験運転を始めた程度で、岩手県では頼みとした太平洋セメント大船渡工場の2基のキルン炉が2011年末に完全復旧したばかりだった。また、両県に対する広域処理協力も限定的なものにとどまっていた。福島県にいたってはほとんど処理は手付かずで、放射能問題から広域処理も頼めなかった。この結果、3県合計の処理進捗率は震災1年後の時点ではまだせいぜい10%だった。環境省は震災がれきの処理終了目標を震災発生から3年後の2014年3月とし、各自治体も同時期を処理終了目標としていたが、目標達成を危ぶむ声が多く聞かれた。
その後、岩手県では完全稼動した太平洋セメント大船渡工場をセンターとして、二次仮置き場での破砕選別処理(セメント原料化)が本格化した。しかし昨年12月、火災によって処理が休止するというハプニングがあった。
宮城県でも昨年4月以降、仮設焼却炉や破砕選別処理施設が順次稼動を開始し、8月ごろには大半の施設が本格稼働した。しかし、二次廃棄物(処理残渣)を出さない完全リサイクルのセメント工場と違って、宮城県の仮設処理施設は不燃がれきや焼却灰の最終処分先が確保できないという問題を抱えていた。こうしたボトルネックのため、宮城県は昨年12月の県議会で、12市町から受託した震災がれき処理進捗率が30%にとどまっていると報告していた。
それなのになぜ、震災がれきの処理は年明けから急進展したのか。
震災がれき処理急進展の真相
実は処理が進展したのではなく、震災がれき発生推計量が下方修正されたのである。
東北3県37市町村の災害廃棄物発生推計量を、震災直後の2011年6月時点と今年2月時点で比較すると、東北3県合計では2183万tから1628万t(-555万t)、岩手県では446万tから366万t(-80万t)、宮城県では1509万tから1102万t(-407万t)、福島県では228万tから160万t(-68万t)と、3県平均25%も減少している。
なぜ、このような大幅な下方修正となったのか。第一の理由は、当初の発生推計量は航空写真による被災面積に、これまでの災害の経験を踏まえた係数をかけて割り出したものだったが、その後、撤去実績数値に徐々に置き換えられたのである。昨年中から何度か下方修正されてきたが、年明けの修正は特に大きかった。
第二の理由は、当初の発生推計量は被災建物の基礎まで除却することを想定していたが、全滅市街地では基礎を除却してしまうと宅地の境界が不明になることや、撤去工期を短縮する観点から、基礎を除却しない現場が増えたからである。戸建て住宅の場合、基礎は住宅全体の3割程度の重さにもなるので、基礎を撤去するかしないかでは震災がれき量は大きく違ってくるのである。
震災がれき発生推計量はかなり下方修正されたが、現地の未処理がれきがもっと少なく見えたということは、これからさらに分母が下方修正される可能性を示唆している。撤去に同意しない被災建物もかなりあること、処理施設ができる前から道路や仮設施設の造成などに有効利用されたコンクリートがれきなどの量が処理量にカウントされていないことなども、震災がれき発生推計量や処理進捗率の誤差となっている。
震災がれき発生推計量が下方修正された結果、広域処理協力を中止する動きや、処理終了目標(2014年3月)を前倒しする動きが出ている。環境省発表の広域処理協力状況は、2月22日現在、実施済み、実施中、実施決定済みの自治体が1都1府13県65件、受け入れ見込み量約62万t(岩手県分約29万t、宮城県分約33t)、受け入れ済量約25万tとなっている。このほか協力表明済みが1都1県4件、試験処理実施済みが2県2件ある。環境省は広域処理協力を震災がれき処理の切り札として推進していたが、結果的にはいまひとつ広がりを見せず、協力表明済みなどを含めても全国で71件にとどまっている。
岩手・宮城両県とも、広域処理協力量を含めて処理終了目標を達成する計画なので、広域処理協力はまだ必要だとしている。しかし、これはお願いしておいていまさら要らないとも言えないから、表向き必要と言っているにすぎない。岩手、宮城両県で487万tも発生推計量が下方修正されたのに、数十万t程度の広域処理協力がまだ必要だというのは意味がない。高い運搬費がかかる広域処理は、本音を言えば全面的に休止し、県内処理に切り替えたいのである。すでに両県とも新規の協力要請は見合わせており、宮城県は4月から可燃物の広域処理を中止すると発表している。
がれき処理施設が余ってしまった
震災がれき発生量が当初推計されたほど多くなく、処理が予定より早く終わる見込みとなったのは良いことだと思うかもしれない。だが、過大な推計に基づいて過大な施設を建設し、過剰な人員を雇用したことは税金のムダ遣いである。
最大の震災がれきが発生した宮城県は、県下の12市町からの震災がれき処理受託量を1107万tと見積もって、県下を4ブロック8処理区に分け、処理をゼネコンなどで構成されるジョイントベンチャーにプロポーザル(企画提案型入札)で発注し、仮設焼却炉29基(焼却能力1日4495t)、破砕・選別施設12カ所を建設した。言葉は悪いが、いわゆる丸投げである。ところが、今年1月の見直しでは受託処理量が582万tに下方修正され、減少率は47%にもなってしまった。つまり、単純計算で仮設処理施設の能力は半分でよく、予算も半分で足りたことになるのである。
国はこれまでに1兆821億円の震災廃棄物処理事業費を計上している。震災がれき発生量が下方修正されても、予算は減額されない。すでに過大推計に基づいて施設を建設してしまったからである。筆者も震災直後に、災害廃棄物処理事業費は最大1兆円と予測したことがあるので呵責を感じる。
現場では過大施設の別の問題が生じている。焼却炉は一定以上の廃棄物がないと定常運転ができず、休止する可能性があるのだ。実際、宮城県では焼却する廃棄物が不足する処理区が出ており、他地区から廃棄物を融通したり、震災がれき以外も処理しようという案も出ている。また早く処理が終わってしまうと、雇用の問題が出るので、予定通りの処理期間にするため処理をペースダウンせよという指示が出たとも聞く。声高には言えないことであるが、これが消えた震災がれきの真相である。
その一方、道路や宅地の嵩上げ工事のため、震災がれきや津波堆積物から再生したグリ(砕石)や土砂は引く手あまたの人気商品となっている。再生資材の品薄は、今後の復興のスケジュールにも影響を与える問題であり、国土交通省は全国の公共事業から発生する再生資材や残土を東北地方へと海上運搬する検討に入っている。莫大な震災がれきを前にして茫然自失していた状況から一転して、廃棄物が足らない事態となっているのである。
それにしても仮設処理施設を着工する前に震災がれきの発生量を見直すチャンスはなかったのだろうか。需要の変化を検証せず、オーバースペックの無用な施設を既定方針どおりに建設して税金をムダ遣いしたというのは、どこかで聞いた話である。一度計上した予算は減額せず、ムダとわかっても予算を使い切るのが仕事だと勘違いしている職員は国にも自治体にも少なくない。予算をチェックすべき財務官僚も、一度付けた予算は減額しようとしない。それどころか、予算を余らせることを厳しくとがめる。予算を減額補正したり、不用額や事故繰越を発生させたりすることは、予算査定が甘かったことになり、財務省の無謬(むびゅう)主義に傷がつくからだ。この無謬主義という幻想を守るために、どれほどの予算がムダになったことだろう。
災害廃棄物処理事業と同じような過大見積もりによる復興予算の暴走は、今後の復興工事でも起こるに違いない。それを事前にチェックする機能は行政にはないのである。
以 上
やはり広域処理は必要なかった!
私たちが前々から言っていたことがやっと正論として報道されるようになりました。
2013年3月11日(月)日経ビジネスより
今回は長いですが、こちらに全文記載させていただきました。
『消えた震災がれきの謎』
石渡 正佳
東日本大震災の発生から2年がたった。
筆者は震災直後から6度にわたって東北地方のがれき処理の状況や復興の状況を現地調査し、復興がなかなか進まない現状を見てきた。国や自治体がこれまで明らかにしていた震災がれきの処理状況もはかばかしくない。
まだ現場の混乱が続いていると思いきや、今年2月22日に環境省が発表した震災がれきの処理進捗率は、岩手県38.8%、宮城県51.1%、福島県30.9%、東北3県合計46.3%で、数字の上では急進展している。宮城県はわずか2カ月程度で20ポイントも進んだことになる。
何か数字のマジックがあるのではないかと思い、2月末に再び東北を訪問した。
被災地を回ってみてまず驚いたのは、震災がれきの処理が目に見えて進展していたことだ。岩手県と宮城県の現地を見るかぎり、どの被災地でも震災がれきの撤去はほぼ完了していた。一次仮置き場に十数メートルの高さに積み上げられていた震災がれきもすっかり消えていた。
環境省発表の数字の上では、未処理の震災がれきがまだ半分残っているはずなのだが、一次仮置き場の震災がれきはどこに行っても見当たらず、二次仮置き場(仮設処理施設)で見られる震災がれきの山も小さかった。震災がれきを満載して走るダンプトラックの数も減ったように感じた。現地では環境省発表の数字以上に処理が進展しているという印象を受けた。
震災がれきは、どこに行ってしまったのか。それを考える前に、これまでのがれき処理の状況を振り返ってみよう。
進んでいなかったはずのがれき処理
震災発生直後、阪神淡路大震災を超える莫大な量の震災がれきの発生に、国も地方自治体も途方に暮れた。その量は東北地方の中核都市の通常年の一般廃棄物発生量の30年分とも100年分とも報じられた。震災がれきの処理責任がある市町村の対応能力を超えていることは明らかだったため、国直轄処理、県委託処理、広域処理協力など、さまざまな支援措置が講じられた。
しかし国直轄処理は民主党政権の方針が二転三転して迷走したあげく、鳴り物入りで「がれき処理特別措置法」が成立したものの、国に期待を表明していた宮城県は既に時機を逸していて見送りとなり、福島県の2市町村で3基の焼却炉が建設されるにとどまっている。県委託処理は宮城県の12市町、岩手県の7市町村が参加したものの、用地買収の遅れなどから本格的に立ち上がったのは震災後1年以上過ぎてからだった。広域処理協力は環境省の依頼に応えて東京都をはじめ多数の自治体が受け入れ表明し、当初は義勇軍の様相を呈したものの、放射能拡散懸念から住民に拒絶されて頓挫する例が相次ぎ、被災地での域内処理の体制が整ったため、現在はほぼ手じまいとなっている。
筆者も震災直後の現地を訪れたとき、莫大な量の震災がれきや津波堆積物を目の当たりにしてあ然とし、広域協力による早期処理(2年間で処理終了)の必要性を訴えた。
震災1年後の昨年3月の時点では、処理が順調に進捗していたのは仙台市だけだった。宮城県が計画した29基の仮設焼却炉はようやく一部が試験運転を始めた程度で、岩手県では頼みとした太平洋セメント大船渡工場の2基のキルン炉が2011年末に完全復旧したばかりだった。また、両県に対する広域処理協力も限定的なものにとどまっていた。福島県にいたってはほとんど処理は手付かずで、放射能問題から広域処理も頼めなかった。この結果、3県合計の処理進捗率は震災1年後の時点ではまだせいぜい10%だった。環境省は震災がれきの処理終了目標を震災発生から3年後の2014年3月とし、各自治体も同時期を処理終了目標としていたが、目標達成を危ぶむ声が多く聞かれた。
その後、岩手県では完全稼動した太平洋セメント大船渡工場をセンターとして、二次仮置き場での破砕選別処理(セメント原料化)が本格化した。しかし昨年12月、火災によって処理が休止するというハプニングがあった。
宮城県でも昨年4月以降、仮設焼却炉や破砕選別処理施設が順次稼動を開始し、8月ごろには大半の施設が本格稼働した。しかし、二次廃棄物(処理残渣)を出さない完全リサイクルのセメント工場と違って、宮城県の仮設処理施設は不燃がれきや焼却灰の最終処分先が確保できないという問題を抱えていた。こうしたボトルネックのため、宮城県は昨年12月の県議会で、12市町から受託した震災がれき処理進捗率が30%にとどまっていると報告していた。
それなのになぜ、震災がれきの処理は年明けから急進展したのか。
震災がれき処理急進展の真相
実は処理が進展したのではなく、震災がれき発生推計量が下方修正されたのである。
東北3県37市町村の災害廃棄物発生推計量を、震災直後の2011年6月時点と今年2月時点で比較すると、東北3県合計では2183万tから1628万t(-555万t)、岩手県では446万tから366万t(-80万t)、宮城県では1509万tから1102万t(-407万t)、福島県では228万tから160万t(-68万t)と、3県平均25%も減少している。
なぜ、このような大幅な下方修正となったのか。第一の理由は、当初の発生推計量は航空写真による被災面積に、これまでの災害の経験を踏まえた係数をかけて割り出したものだったが、その後、撤去実績数値に徐々に置き換えられたのである。昨年中から何度か下方修正されてきたが、年明けの修正は特に大きかった。
第二の理由は、当初の発生推計量は被災建物の基礎まで除却することを想定していたが、全滅市街地では基礎を除却してしまうと宅地の境界が不明になることや、撤去工期を短縮する観点から、基礎を除却しない現場が増えたからである。戸建て住宅の場合、基礎は住宅全体の3割程度の重さにもなるので、基礎を撤去するかしないかでは震災がれき量は大きく違ってくるのである。
震災がれき発生推計量はかなり下方修正されたが、現地の未処理がれきがもっと少なく見えたということは、これからさらに分母が下方修正される可能性を示唆している。撤去に同意しない被災建物もかなりあること、処理施設ができる前から道路や仮設施設の造成などに有効利用されたコンクリートがれきなどの量が処理量にカウントされていないことなども、震災がれき発生推計量や処理進捗率の誤差となっている。
震災がれき発生推計量が下方修正された結果、広域処理協力を中止する動きや、処理終了目標(2014年3月)を前倒しする動きが出ている。環境省発表の広域処理協力状況は、2月22日現在、実施済み、実施中、実施決定済みの自治体が1都1府13県65件、受け入れ見込み量約62万t(岩手県分約29万t、宮城県分約33t)、受け入れ済量約25万tとなっている。このほか協力表明済みが1都1県4件、試験処理実施済みが2県2件ある。環境省は広域処理協力を震災がれき処理の切り札として推進していたが、結果的にはいまひとつ広がりを見せず、協力表明済みなどを含めても全国で71件にとどまっている。
岩手・宮城両県とも、広域処理協力量を含めて処理終了目標を達成する計画なので、広域処理協力はまだ必要だとしている。しかし、これはお願いしておいていまさら要らないとも言えないから、表向き必要と言っているにすぎない。岩手、宮城両県で487万tも発生推計量が下方修正されたのに、数十万t程度の広域処理協力がまだ必要だというのは意味がない。高い運搬費がかかる広域処理は、本音を言えば全面的に休止し、県内処理に切り替えたいのである。すでに両県とも新規の協力要請は見合わせており、宮城県は4月から可燃物の広域処理を中止すると発表している。
がれき処理施設が余ってしまった
震災がれき発生量が当初推計されたほど多くなく、処理が予定より早く終わる見込みとなったのは良いことだと思うかもしれない。だが、過大な推計に基づいて過大な施設を建設し、過剰な人員を雇用したことは税金のムダ遣いである。
最大の震災がれきが発生した宮城県は、県下の12市町からの震災がれき処理受託量を1107万tと見積もって、県下を4ブロック8処理区に分け、処理をゼネコンなどで構成されるジョイントベンチャーにプロポーザル(企画提案型入札)で発注し、仮設焼却炉29基(焼却能力1日4495t)、破砕・選別施設12カ所を建設した。言葉は悪いが、いわゆる丸投げである。ところが、今年1月の見直しでは受託処理量が582万tに下方修正され、減少率は47%にもなってしまった。つまり、単純計算で仮設処理施設の能力は半分でよく、予算も半分で足りたことになるのである。
国はこれまでに1兆821億円の震災廃棄物処理事業費を計上している。震災がれき発生量が下方修正されても、予算は減額されない。すでに過大推計に基づいて施設を建設してしまったからである。筆者も震災直後に、災害廃棄物処理事業費は最大1兆円と予測したことがあるので呵責を感じる。
現場では過大施設の別の問題が生じている。焼却炉は一定以上の廃棄物がないと定常運転ができず、休止する可能性があるのだ。実際、宮城県では焼却する廃棄物が不足する処理区が出ており、他地区から廃棄物を融通したり、震災がれき以外も処理しようという案も出ている。また早く処理が終わってしまうと、雇用の問題が出るので、予定通りの処理期間にするため処理をペースダウンせよという指示が出たとも聞く。声高には言えないことであるが、これが消えた震災がれきの真相である。
その一方、道路や宅地の嵩上げ工事のため、震災がれきや津波堆積物から再生したグリ(砕石)や土砂は引く手あまたの人気商品となっている。再生資材の品薄は、今後の復興のスケジュールにも影響を与える問題であり、国土交通省は全国の公共事業から発生する再生資材や残土を東北地方へと海上運搬する検討に入っている。莫大な震災がれきを前にして茫然自失していた状況から一転して、廃棄物が足らない事態となっているのである。
それにしても仮設処理施設を着工する前に震災がれきの発生量を見直すチャンスはなかったのだろうか。需要の変化を検証せず、オーバースペックの無用な施設を既定方針どおりに建設して税金をムダ遣いしたというのは、どこかで聞いた話である。一度計上した予算は減額せず、ムダとわかっても予算を使い切るのが仕事だと勘違いしている職員は国にも自治体にも少なくない。予算をチェックすべき財務官僚も、一度付けた予算は減額しようとしない。それどころか、予算を余らせることを厳しくとがめる。予算を減額補正したり、不用額や事故繰越を発生させたりすることは、予算査定が甘かったことになり、財務省の無謬(むびゅう)主義に傷がつくからだ。この無謬主義という幻想を守るために、どれほどの予算がムダになったことだろう。
災害廃棄物処理事業と同じような過大見積もりによる復興予算の暴走は、今後の復興工事でも起こるに違いない。それを事前にチェックする機能は行政にはないのである。
以 上