環境ジャーナリスト 青木泰さんからレポートが届きました。
広域化政策の中で全国に点在する問題、その氷山の一角がまた現れたのです。北九州市に続き、今度は東京都に焦点をあてます。



―がれきの広域化広がる疑惑―   2012年7月5日  

東京を特別扱いした宮城県の怪しい事情    

環境ジャーナリスト    青木泰



1)   民間ベースの処理に、東京は何故チョッカイが可能だったのか?

東京都が広域化で動き出したときには、宮城県内では、民間に委託し処理が始まっていた。

東京都は、女川町のがれきを、宮城県を通して10万トン受け入れる準備に入ったのは、昨年2011年の11月24日。宮城県、東京都、東京都環境整備公社が、「災害廃棄物の処理基本協定」を締結している。(注1)

しかし宮城県では、県内を4つのブロック(気仙沼、石巻、宮城東部、亘理・名取)に分け、各ブロックごとに大手ゼネコンによる特定建設工事共同事業体(JV)が、がれきの処理を請負っている。

女川町が区分けされた石巻ブロック(石巻市、女川町、東松島市)は、3市町のがれき発生量826、4万トンの内、宮城県が処理を受託した量は685万トン。その全量を昨年の7月29日に告示を行い、(注2)プロポーザル審査で9月16日には、鹿島JV(注3)と契約していた。(注4)

この時点で、 石巻ブロック(石巻市、女川町、東松島市)のがれきの全量の行き先は、鹿島JVと決まっていた。

確かに東京都がこの問題で動き出したのは、早く、昨年6月の補正予算時である。東京都石原知事は、東京都の環境整備公社に災害廃棄物の処理を受託させることを目的に、70億円の貸付金を計上し、同年7月1日の都議会で議決している。(注1)

しかしその後宮城県では、民間ベースでがれきの処理策が、決定していた。

本来ならば、宮城県はこの段階で、宮城県には、東京都や他の自治体に中間処理や最終処分を頼むがれきがないことを内外に宣言する必要があった。少なくとも石巻ブロックに関しては、鹿島JVに委託したがれき以外は、無かった。

時間的な経過を考えると、国の第三次復興予算が決定したのは、昨年11月であり、環境省の広域化政策はここから出発した。

東京都が宮城県との交渉に本格的に動き出すのは、その後である。

しかしその時には、東京都が受け入れに「割り込む」余地はなかったはずである。そもそも広域化の必要すらなくなっていた。

ではなぜ、宮城県は女川町のがれきを、改めて東京都に依頼する必要があったのか?

宮城県に聞くと「一刻も早く処理したいということがあった」という。しかし鹿島JVとの契約にあたっての告示でも業務内容を「災害廃棄物について、選別、破砕、焼却等の中間処理を経て、再資源化及び最終処分を行うものである。」と記載され、H26年3月25日までに処理することが謳われている。

その時点ではまだ契約すら結んでいない東京云々することは、処理を遅らせることはあっても、処理促進のためというのは、理由にならない理由である。

環境省の広域化も、東京都への依頼も、すべてがれきの処理策が民間ベースで進められることが決定してからの動きである。

民間ベースといっても、この処理には、国の交付金が手当てされる。そのがれきを広域化名目に持ち出し、しかも遠方に運ぶというのは、同じがれきの処理に2重3重に交付金を使うことになる。

これは明らかに交付金の詐取にあたる。

中心になって差配していた宮城県がこの事実を知らないとはいえないが、では環境省や東京都は何処まで知っていたのか?

国の広域化政策に答え、東京都に持ってきた女川町のがれきは、一体何処から出てきたのだろうか。

<経過>

2011年

6月都議会  東京都環境公社への70億円の貸付金 補正予算提案

7月1日   同上補正予算議決

7月29日  宮城県 石巻ブロック(石巻市、女川町、東松島市)のプロポーザル  審査告示。

9月16日  石巻ブロックの685万トン 鹿島JVが中間処理&最終処分の業務委託契約締結。

11月21日 国の第3次復興予算決定。-広域化予算面で裏付け。

11月24日 宮城県、東京都、東京環境整備公社が「災害廃棄物の基本協定」を締結。

12月1日  試験焼却について東京都環境整備公社と東京23区清掃一部事務組合委託契約

2012年

2月23日   本格焼却についての東京都環境整備公社と東京23区清掃一部事務組合委託契約 3月2日から実施分





2) 宮城県の奇妙な資料―石巻市、女川町は、2重にブロック区分

① 東京のために別枠保管(!?)

宮城県が2012年5月21日に記者会見資料として作成した「災害廃棄物処理対象量の見直しについて<県受託処理分>」(注5)によると、

宮城県は、県内を4ブロック(気仙沼、石巻、宮城東部、亘理名取)に分けてがれきの処理を進めてきたことが分かる。

たとえば石巻ブロックは、以下のように表記されている。

ブロック名:石巻ブロック

処理区:石巻

市町名:石巻市、女川町、東松島市

県受託量:685万トン(見直し前)312万トン(見直し後)



東京都が委託を受けた女川町や北九州市が委託を受けようとしている石巻市は、この石巻ブロック<石巻市、女川町、東松島市>に入るが、

この資料(P5)では、「災害廃棄物処理対象量<県受託処理分>の見直し結果概要」が表になって示され、表によれば、宮城県は、県内を4ブロックに分けただけでなく、それ以外「県自己処理分」というブロックを設け、以下のように記載されていた。

ブロック名:県内自己処理分

処理区:石巻

市町村名:石巻市、女川町

県受託量:16万トン(見直し前)12万トン(見直し後)



石巻市と女川町は、すでに石巻ブロックに入っているが、改めてこの「県内自己処理分」に区分けされている。石巻市と女川町は、この時点で2重にカウントされていた。

県の担当者の話しによれば、「県内自己処理分」の

見直し前の16万トンの内訳は、6万トンが石巻市の分、10万トンが女川町の分ということであった。

16万トン・・・・6万トン(石巻市)

     ・・・・10万トン(女川町)→東京都用

見直し後の12万トンの内訳は、石巻市6万トン、女川町6万トンであり、

12万トン・・・・6万トン(石巻市)→市内処理完了

     ・・・・6万トン(女川町)→東京都用

石巻市の6万トンは、すでに石巻市から市内の業者に渡され処理が確定している。女川町の6万トンは、東京都に運ばれ広域処理されるようになっている。

「県内自己処理分」は、行方が決まっているということだった。

何のことはない、「県内自己処理分」といいながら東京都に女川町から持ってくる予定の10万トンは、この「県内自己処理分」から用意していたことになる。

見直し後東京都に女川町から持ってくるのは、6,1万トンと東京都から発表されているが、数字上も符合する。



② 理由が成り立たない特別扱い

では宮城県はなぜ、女川町のがれきの処理を、一方で石巻ブロックで取り扱い、他方で「県内自己処理」という2本立ての処理にしたのか?

宮城県の担当者によると東京都がそのように望んだからと言う。

宮城県から女川町の分として東京に持ち込む分は、10万トン。宮古での処理費をベースに計算するとトン当たり6万円で、60億円に上る巨額費用となる。

しかし宮城県が女川町を含む石巻ブロックとして処理する全量からすれば、わずか1.5%にしか過ぎない。宮城県が処理を急ぐのなら、685万トンにこの分を含めてなぜ民間委託しなかったのか?大いに疑問が残る。

しかも別枠でがれきを保管・確保する合理的な理由は見つからない。

鹿島JVのがれきの引き受け料金は、がれきだけで考えるとトン当たり約3万円、津波堆積物を計算に入れると約2万円である。

東京に持って来れば2~3倍に跳ね上がる。

しかも民間ベースでの契約は、昨9月16日に終わり、今年の3月までに約70万トン処理するペースで処理が始まっていた。東京はその時点でもまだ始まっていない。

広域化に向けて、東北以外の自治体として初めて受け入れ表明した東京都の顔を立てて、別枠で「がれき」(=利権)を確保したというのであろうか?

しかしそれは、国の交付金を無駄に使い、詐取する犯罪行為である。

宮城県は、4ブロックに分け、それらすべてに鹿島JVや大成JVなどのゼネコンに民間ベースでがれき処理を委託していた。(注6)

その上で、広域化はもう必要なかった。がれきの処理の行く先は、もう決まっていた。環境省主導の広域化は、したがってがれきを2重にカウントする形で、始めるしかなく、その利権に東京都が目ざとく反応し、見破られた宮城県が東京都のために別枠でがれきを確保した。一種の口止め料か?そのような経過が想像されるのである。

東京都は、すでにがれきの処理は、民間ベースで進んでいたという事実をどこまで知っていたのか?今回のがれきの処理にあたって、宮城県の責任者が刑事捜査の対象になるのは、不可避の過程である。その際東京都や北九州市がどこまでその事実を知っていたか?



3) 東京都は宮城県の裏事情をしっていたか?

 これらの経過を事実に基づき、もう一度まとめてみる。

宮城県のがれきは、2011年9月16日、石巻ブロック<石巻市、女川町、東松島市>から受託していた全量を鹿島JVに委託していた。民間ベースでの処理を決定していた。その時点で、国の予算上の裏づけのない東京都や他の自治体への広域処理分を別枠で積み残し保管することは考えられない。

宮城県が鹿島JVに委託した段階で、宮城県の石巻市や女川町から広域化政策の下にがれきを他の自治体で処理する必要は無くなったはずである。

その後東京都が女川町のがれきの受入れに手を上げ、2011年11月24日に宮城県、東京都、東京都環境整備公社が、「災害廃棄物の処理費本協定」を結んでいる。そして東京都環境整備公社と東京都清掃一部事務組合が、試験焼却について委託契約を同年12月1日に結び、2012年2月23日本格焼却契約を締結する。

東京都が宮城県の女川町のがれきを受入れ、試験焼却から本格焼却へと進む経過は、以上の通りであり、東京都が受入れのための基本協定や試験焼却の準備を進めていたときには、民間ベースでの処理契約も終わっており、受入れの必要性がなくなっていたことは明らかである。

東京都とのやり取りの中で、宮城県の石巻ブロックには、鹿島JVに依頼した以外に石巻市には6万トン、女川町には10万トン別枠でがれきが保管されていたという形をとっているが、

宮城県は、次の疑問に答える必要がある。

       鹿島JVに685万トンものがれきの処理を委託しているのに、その2%でしかない16万トンを、広域化のために別枠でなぜ保管する必要があったのか?

       広域化による処理委託費が高額に上ることを考えた時、この別枠処理は、国の交付金を使った処理として適切だったのか?それは宮城県が主導した処理策だったのか?環境省の指導の下で行ってきたのか?

       そしてそれらのがれきは、本当に別枠として保管していたのか?-鹿島JVとの委託契約の時には、まだ行く先も見えなかった東京のために、先行して別枠で確保できたのはなぜか?

       北九州に試験焼却で送った石巻の分は、鹿島JVが確保していた分から送ったということだが、なぜ東京の分は、別枠にしたのか?

       もし鹿島JVが確保していた分から東京に送っていたということになれば、同じがれきの処理を鹿島JVと東京に委託するという2重契約になり、詐欺行為になる。鹿島JVもこのことは了解済みだったのか?

       東京都は、それらの事情を知っていたのか?知っていたとすれば、宮城県の詐欺行為の共同正犯となるが?東京都は宮城県の詐取行為に加担していたのか?



4)  求められているのは、「がれきから人へ」

    がれきの総量の見直しと石巻ブロックの見直し

今年の最初、政府の総がかりの「絆キャンペーン」の下に、がれきの広域化が進められてきた。インターネット、週刊誌メディア、新聞、TVとがれきの広域化が、列島を汚染する政策でしかないことが、徐々に広まった。また全国での住民の戦いや広域化のおかしさに抵抗し、公然と批判を投げかける自治体が増加した。そうした全国の声を受け、環境省との326交渉が行われ、そのころから環境省の広域化は、破たん局面に入った。

環境省が環境監視省でなく、環境汚染省として振る舞ってゆくというおかしさが、チェックされた。

その象徴的な出来事が、宮城県が当初環境省がカウントしていたがれきの総量の見直しを行い、宮城県の市町村の発生量として全体で約420万トン、約1/4のがれきが下方修正されたということである。

またそれに伴い、宮城県の受託分だけで言うと石巻ブロックは、685万トンから、312万トンに減ったことが報告された。

         

発生量OR受託量  見直し前   見直し後     差し引き<万トン>

宮城県全体   1572,9  1153,7   419,2

石巻ブロック  685     312      373



東京都の問題に却って、石巻ブロックのがれきは、全量鹿島JVに委託されていたが、それに加え、現状はそのがれきの量が、半減している。何処から考えても高い処理費をかける東京に宮城県から運ぶ必要はない。鹿島JVの請負は、地元での雇用を数千人作り出すとされていた。石巻のがれきのわずか1,5%のがれきを東京都に持ってくる理由は、もう無くなった。東京都は、宮城県のがれき処理から手を引くべきである。

② がれきの総量の再見直しをー岩手県の増加に異議

今回宮城県のがれきの総量が大幅に下方修正されたのは、環境省のがれきの推定が、住宅地図に基づき計算され、海に流される量を計算に入れていなかったという初歩的な失敗によるといわれている。

同様の計算方法でがれき量を推計した岩手県の場合も、もちろん下方修正が妥当である。ところが岩手県は、全体で約1割、50万トン増えたといわれている。岩手県も下方修正されていれば、がれきの広域化は、その時点で収束されていたと考える。

ところが岩手県は、土砂が泥が付着して量が増えたという。

宮城県が大幅に下方修正された理由、海に流されたを考えても、なぜ岩手県は、海に流されなかったのか?疑問が残る。海に流される分を考えれば、岩手県も下方修正されてよいはずが、逆に増えている。

しかもデータを詳細に見てゆくと、被災市町村で増減があるが、陸前高田市は、これまでの約100万トンから約150万トンに50万トン、5割も増加している。その他の市町村の増減でプラマイゼロであり、陸前高田市の分が、岩手県の増加分なっている。しかし土砂が付着して5割も増えることは在り得ない。要するに岩手県が増えたという話は、もう一度検証する必要がある。

今回の東京都のがれき受入れ問題、どこまで石原都知事が知っていたのか?気になるところだ。

東京都が受け入れの発表をしたとき、石原知事の声は心なしかかすれていた。その上で出てきたのは、「黙れといえばよい」という悪代官並みの発言だったのだ。民間ベースで進んでいたことを知っての発言だったとしたら責任を問われる事態になる。

大阪の橋下市町や今も全国で受入れを検討している首長は、がれき受け入れで利権に係わるのか?と言った疑念を持たれることは止めた方がいい。

がれきの広域化の破綻は、隠しようがない。がれきの広域化は、先が見えてきたが、がれきなどの放射能汚染廃棄物の問題は、被災地を始め汚染地域で続く。そして非汚染地域では、がれきの受入れではなく、避難者の受入れが今後本格的な課題になる。「がれきより人を」である。まだまだ福島原発の爆発の後処理すらできていない。

後世代に汚染とDNA異変を引き継いでゆくことはできない。





注1: がれき問題で区民が東京都に提出した東京都職員監査請求(いわゆる住民監査請求)

注2:宮城県による「業務番号 平成23年度環災第3-261号」の技術提案書の提出を招請する告示。鹿島JVの他に大成JVが参加。


注3:鹿島JV(特定建設工事共同事業体)。鹿島建設、清水建設、西松建設、佐藤工業、飛島建設、竹中土木、若築建設、橋本店、遠藤興業いずれも株式会社で構成。

注4:廃棄物処理法上は、市町村の家庭や小規模事業者から輩出される廃棄物、一般廃棄物は、市町村の責任で処理することになっている。(廃棄物処理法第6条の2)今回の震災がれきも第1義的には、市町村の責任で行い、財政的には、国からの交付金でまかなわれる。市町村でできないがれきは、県に委託する形をとっている。

注5:http://www.pref.miyagi.jp/press/pdf/120521-7.pdf#search='災害廃棄物処理対象の見直しについて'



注6;

がれき広域処理の正体・ もともと不要! 5千億円がゼネコンJVへ! 
 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-column1.htm

 奈須
え  :がれき広域処理根拠なし(1)必要性無編 You Tube
  http://www.youtube.com/watch?v=i3KmBjkbkU0

 池田こみち:がれき広域処理根拠なし(2)巨額使途編 You Tube
  http://www.youtube.com/watch?v=dGW1uwfPGNg

 青山貞一:テレビ西日本「がれき広域処理」生番組(CUBE)出演記 
  http://eritokyo.jp/independent/aoyama-democ14034...html

 がれき広域処理は合理的根拠なし合同調査チーム速報
  http://eritokyo.jp/independent/aoyama-democ1535..html