―がれきの広域化を巡る情況―宮城県に続き岩手県も実質崩壊。

環境省の広域処理政策は破綻。

不必要な広域処理は直ちに中止に。

環境ジャーナリスト 青木泰氏から10月最新レポートが届きました
  
「がれきの広域化処理の崩壊を示す工程表」
 震災がれきの広域化を巡って、3つの大きな動きがあった。
① 環境省が今後の広域化方針を「工程表」(8月7日)としてまとめ発表した。宮城県から広域化されるの受け入れ自治体は、2か月前の16都府県から東京都と北九州市を残し、ほぼなくなり、岩手県の計画も1/6に減少していた。2か月前の環境省の報告からすると大幅に下方修正され、広域化計画は、破たん終了したという報告内容になっている。(5/6ではなく、1/6への減少である。2か月で1/6だからもう2ヶ月待てば、1/36になるのか?計画の破たんを示すものでしかない)
 宮城県は、建設ゼネコンに業務委託していたがれきの処理量を半減し、契約金を約20%削減した。半減した処理量は、375万トンに及び、東京への6.1万トンの60倍である。
ところが、宮城県は、8月31日、新たに北九州市にもがれきを2.3万トンを委託する契約を行った。
震災がれきを全国の市町村に運び、市町村の処理施設を使って、焼却&埋め立て処理するという広域処化理は、今回の工程表で発表された内容や、宮城県での業務委託契約の変更を見ても、計画自体終わったと言える。
ところが、被災県では、今回の工程表が発表され、広域化が大幅縮小されたのに、「それでは、がれきの処理は片付かない」といった悲鳴が聞こえてこない。(宮城県も岩手県も、広域化に頼らなくとも、県が計画を立てと方針で、処理できるからである。)
しかも北九州市との新たな契約は、これまでの“お礼”として持って行くと説明されている。
本来、被災地でがれきの処理の遅れを取り戻し、復興の促進に寄与すると計画が立てられたがれきの広域化処理だったはず、がれきが被災県でできるなら、高いお金をかけて、遠くに運び広域化処理の必要はない。
東京都、北九州市にがれきを運ぶのは、一刻も早く中止したい。
 
 

 

1.  工程表に示された宮城県の状況

1)  残るは、北九州市と東京都

 宮城県の6~7割が、石巻ブロック(石巻市、女川町、東松島市)のがれき、東京都、北九州しは、この石巻ブロック。

*全量鹿島JVに昨年9月に処理委託。

*5月の見直し後の環境省の報告でも、受け入れ自治体は16の都道府県。

*今回の「工程表」では、実質東京都と北九州市だけに。

宮城県から運ばれるがれきの広域化処理は、東京都、北九州を残すのみとなってきた。

 

2) 環境省2か月余で変更―広域化の破たんを示す「工程表」

① 2か月前に掲げていた16都府県名

5月21日に環境省が発表したがれきの処理方針「災害廃棄物推計量の見直し及びこれを踏まえた広域処理の推進について」では、

*「宮城県と最優先で広域処理の実現を図る自治体における進捗状況」には、東京都、青森県、山形県、茨城県、三重県、滋賀県、京都府(京都市)、兵庫県、福岡県(北九州市)の9県が、

*「…受け入れについて具体的な回答をいただいている栃木県、千葉県、山梨県、岐阜県、愛知県、鳥取市、島根県」と7県の県名、

*以上合計16都府県の名前が挙がっていた。

わずか2か月余で、東京と北九州市の2箇所に。

② 広域化必要量はそのままの数値―責任回避の誤魔化し。

*「推進計画」では、宮城県の広域化必要量は、127万トン、そのまま。

*「工程表」でも同じである。

可燃物39万トン,木くず40万トン、不燃混合物48万トン合計127万トンが広域化必要量との記載は変わっていない。(東日本大震災に係わる災害廃棄部の処理工程表(概要))

③.工程表から垣間見える事実と今後

「工程表」の特徴と問題点は、

    広域化必要量を過去の計画と一致させ、行政の継続性=権威を保ち、

    その一方で、受け入れ自治体の激減の事実を隠し

    激減は、がれきの広域化の必要性がなくなっているためという点を隠し、

    東京都と北九州市の分は何としても継続するという意思表明。

 

2.宮城県の大幅削減の中で、北九州市への移送。

1)北九州市と委託契約(注1)

① 突然9月議会前に委託契約

* 910日宮城県は、北九州市と8月31日委託契約を結び、

* 仙台塩釜港から船積し、917日に北九州市は、違法に燃やし始めた。

②一度結んだ契約を無視=違法な2重契約

* 今回の委託契約は、石巻市の雲雀野(ひばりの)の2次仮置き場のがれきを2万3千トン、北九州市に運ぶという契約である。

* しかし宮城県は、その雲雀野のがれきは、鹿島JVに委託していた。

* 今回の契約は、鹿島JVが、最後まで処理処分する約束のがれきを、中抜きして北九州に運ぶというものであり、宮城県は、鹿島JVとの契約変更を済ませていないため、違法な2重契約となる。(民法119条違反)

 

2)    がれき量を半減する委託変更契約

    変更提案の内容

* 宮城県は、現在開催されている宮城県議会に、鹿島JVなどとの契約書の変更提案を行っている。(P8の☆1参照)

* 契約書の変更内容は、がれきの処理量の半減化と、それに伴う契約金の20%削減である。石巻ブロックのがれき量を685万トンから310万トンに減らし、契約金を441億円減額する。

② お礼は賄賂

* 宮城県が語る北九州市への広域化の理由は、当初からがれきの広域化に協力姿勢を持ってもらったためーお礼だと言うのである。

* 公務員が行う職務に対しての“お礼”は“わいろ”である。

* がれきの処理に大きな余力が生まれ、半減する見直しが行われた時に、地元での処理を奪い、高い処理コストの広域化を選択する必要はない。

2.岩手県の広域化計画量のおかしさ

1)    工程表で示した広域化量は、2ヶ月前の1/6に減少。

*2ヶ月の間に、広域化処理必要量は、98万トンから15,2万トンと1/6~1/8に大きく減っていた。(下表参照)


 (表1)

環境省・岩手発広域化(木屑・可燃物)

広域処理の推進について

工程表

 

201521)     (万トン)

      (20128、7)              (万トン)

受け入れ

   搬出

可・木くず

搬出

可燃

木くず

合計

青森

県北

11,65

野田村

0,31

0,11

0,42

秋田

県北&宮古

13,5

久慈市

0,3

 

 

 

 

 

野田村

1,18

 

 

 

 

 

宮古地区

0,4

 

1,88

群馬

山田、宮古他

8,3

宮古地区

2,78

 

2,78

埼玉

県、野田村

5,0

野田村

 

1,13

1,13

東京都

宮古

1,8

大槌町

0,27

 

0,27

新潟

   ―


 〃

 

0,63

0,63

富山

山田

5,0

 

1,08

 

1,08

石川

    


石川

0,6

 

0,6

福井

    


大槌町

 

 0,16

0,16

静岡

山田、大槌町

7,7

山田

 

 0,89

0,89


 

 

大槌町

 

 1,46

1,46

三重

     


久慈市 

0,27

 

0,27

大阪府

宮古

18,0

宮古

3,6

 

3,6

小計

 

70,9

 

 

 

15,2

その他

 

 

 

 

 

 

神奈川

 

12,1


 

 

 

山形

 釜石

150


 

 

 

北海道

   ―



 

 

 

千葉市

   ―



 

 

 

総計

 

98,0

 

 

 

15,2

 

 

 

*県北(洋野町、久慈市、野田村、普代村)

 

「工程表」では、表1に示したような「推進計画について」(注2)で示した処理量と今回「工程表」(注3)で示した処理量が、対比して示されていない。

*岩手県でも広域処理によって処理するがれきの量が減っているのに、あえてまだがれきの処理が必要だと見せかけた「工程表」と言うことができる。

 

2)     工程表の問題点

*環境省が、工程表で示している代表的な自治体での広域化推量が「広域処理の推進について」で示した数値とのように変わったのかを対比的に示す。

木くずや可燃物については、

全体で15万2千トン←98万トン

山田町関係

静岡県0.89万トン←7.7(大槌町含む)

富山県1.08万トン←5,0万トン

野田村・県北関連

秋田県1.88万トン←13.5万トン

埼玉県1.13万トン←5.0万トン

宮古市や宮古地区関連

群馬県2.78万トン←8.3万トン

大阪府(市)3.6万トン←18万トン

*数量が大きく減少しているほか、処理委託する中身も異なってきている。(例えば富山県では、「木くず」5万トンから、「可燃物」1.08万トンに)

*工程表と工程表(概要版)(注4)の記載内容の齟齬―工程表では、15.2万トン。工程表(概要版)では、29万トンと約2倍に表記している。

 

3)まとめ

  「広域処理の推進について」及び「工程表」で示した数値に6倍の開きがあり、発表されているデータに一貫性がなく信頼できない。

  「工程表」と「工程表(概要)」での数値の違いーずさん極まりない

  「工程表」の中には、環境省のこれまでの発表内容を対比して記載したり、数値が変わった理由が記載されていない。

 

3.岩手県の広域化は、必要か推論する。

現在環境省が発表している広域化が必要ながれき量は、工程表で示され、それは表1に示されている。本当に広域化が必要であるかの検証を行いたい

1)基本データ

*環境省の肝いりで全国の地方自治体に広域化しようとしているのは、木屑や可燃物である。岩手県の発生量は、見直しで、下記のように35%~42%も大幅に減っていたことが記載されている。

*「岩手県災害廃棄物処理詳細計画」(H23830)(注5)と改訂版(H245)(注6)の比較。()内は、(H23830)のデータ。

柱材・角材の量は、30万6400トン(←52万3800トン)

可燃系混合物の量は、66万200トン(←103万4100トン)

それでも全体量が以下のように約90万トン増えたのは

全体量   525万トン (←435万トン)

不燃系混合物の量245万2300トン (←113万2400トン)

コンクリートがら144万8600トン (←90万3600トン)

金属くず24万5000トン (←67万2200トン)

*不燃系混合物の増大は、津波堆積物やコンクリートがらが増えたため。

*この柱材・角材の量から木屑約30万トン、可燃系混合物66万トンの数値が基本データとなる。これらの処理が、岩手県でどのように処理され、広域化処理がどれだけ必要かが問題となる。

 

1)     岩手県での木屑や可燃物の処理計画

*今回全国広域化の方針を掲げた被災2県を見ると、宮城県と岩手県では、処理方針が違っていた。

① 宮城県の処理の特徴

*宮城県は、県内を4つのブロック(石巻、気仙沼、亘理・名取、宮城東部、)に分け、各ブロックごとにプロポーザル審査を行い、建設ゼネコンや複数の建設ゼネコンからなるJV(特定建設事業共同事業体)」に業務委託している。

*大きなブロックに分けたため、大手の建設ゼネコンが、審査に応じる。

*宮城県は建設ゼネコンが入り、巨大な規模、巨額(数百億円から2000億円)の業務委託費。一部の例外を除き、ほぼゼネコンに丸投げ。

*しかも業務委託の事実を隠し、全国の自治体にがれき処理を依頼。

②岩手県の処理の特徴

    これに対して岩手県は、木くずなどはボード会社やペレット会社などの再生利用に回し(100t/日)

    その他の木くずや可燃物などの廃棄物の焼却等の中間処理は、以下のような3つの方向で行っている。

  県内市町村の清掃工場の焼却炉を使う。(合計225t/日)

  仮設焼却炉を新設したり、地元釜石の新日鉄の休炉中の溶融炉などを使い焼却(合計195t/日)

  太平洋セメントや三菱マテリアルなどのセメント会社のプラントで、セメント作成時の燃料として使う。(770t/日)

*県内の既存施設の活用を第1に置き、がれきの処理の計画を作っている。

*県全体を4つのブロック(久慈、宮古、釜石、大船渡)に分けて処理。中間処理の行先を決めているため、廃棄物業者との間で、結んだ契約は、被災市町村の1次仮置き場から2次仮置き場に運び、破砕選別した後、上記の①~③の中間処理先に運ぶという運搬・処理事業契約である。

*契約金額は、数十億円単位で、石巻ブロックの事例と比較すると、2ケタ金額が少なくなっている。

契約の期間も、1年単位の契約。宮城県の場合、3年目の2014年3月31日までの契約を、当初のがれきの推定量によって結んだのとは、大違い。

*確かにがれきの発生量の推計自体、難しさのある中で、1年単位の契約を結べば、1年間の処理実績を見ながら2年目以降の契約を結べば良い訳で、合理的である。

*いずれにせよ、岩手県は、木屑などの再生利用を図りながら、汚れた木屑や可燃物については、上記に示した①~③の方法で中間処理する計画を立てていた。

 

3) 広域化は必要ない!?

ではこのように計画を進めている中で、基本データで見た木屑や可燃物の処理は、どのように進めてゆくことができるのだろうか?

<木屑の行方は?>

    木屑は安全で質の良いものならば、ボードやチップ材に使用され、有価物としての市場もある。実際実際視察や岩手県への問い合わせや取材の報告として木屑がないという情報が多い。

    表1で見ても、富山県に当初持ってくるといっていた山田町の木屑5万トンは、工程表の計画では、「0」になり、富山県には、可燃物が、1.08万トン持ってくるという予定に変わっている。

    山田町への富山県議らによる視察団は、木屑がほとんどなかったと報告。

    静岡県の島田市でのコンテナへの石ころ混入事件。

* 木屑が有価物として取引されていれば、現地の状況の中で「持ち去り」はないのか?

*木屑の材料となる柱材・角材が、30万トンあったとしても、それは、現状どのように処理され、また処理されつつあるか検証が必要だ。実際環境省の今回の「工程表」で示されている広域化が必要な木屑量は、現状で合計4万500トンであり、岩手県内で25万トンは処理する方針に変わっている。

ではそれがなぜ30万トンにならないのか?

<可燃物の行方は?>

    可燃物については、可燃物以外のものも混合された物、「可燃系の混合物」が66万トンである。

    この中に実際の可燃物がどれだけ含まれているのかは、「岩手詳細計画・改訂版」(P49)の岩手県の可燃物処理フローでも可燃物の合計は、54万4500トンとなっている。

    この(一部木屑を含む)可燃物は、先に見た①既設の清掃工場の焼却炉、②仮設焼却炉③セメント工場で焼却することになるが、これらの処理能力は、同資料のP31に記載がある。まとめてみると

  225トン/

  195トン/

  770トン/

合計で1190トン/日なっている。

*年間330日稼動で計算すると、年間約40万トン処理でき、2年間で80万トン処理できる計算になる。

*汚れた木屑は、多少焼却することになっても十分処理できる量となる。

*以上現在公表されている基本データや岩手県内での処理能力から言えば、環境省が進める全国の市町村の清掃工場を使った広域化提案は、必要ないと推論することができる。また被災県内での今後の処理として、森の防潮堤などの埋め込み資材として使ったほうがよりよい活用方法になる。

4.今後の課題

①宮城県―民間委託した処理量を減らす状況の中で、東京都へのがれきの引き受けも、北九州市も一刻も早くやめさせよう。

  岩手県―2ヶ月前の計画のすでに1/6になり、広域化に頼ることなく処理している。今掲げているところは、実態調査の調査団を派遣し、岩手県についても、受け入れをやめさせよう。

   今回のような問題の常として、有害物を持ち込まれる市町村での住民の関心は高いが、排出側の被災県ではほとんど関心や問題になっていない。

  ④ そうした中で北九州市の市民と宮城県の市民が連携を図る市民組織「おひさまプロジェクト」を結成した。

 

<注釈>

注1:委託契約書(平成24年環災第3―218号)名称「災害廃棄物処理」(北九州市搬出)委託料金622,204,628円 搬出場所 「宮城県石巻市雲雀野町区内(二次仮置き場)」

注2:「災害廃棄物の推計量の見直し及びこれを踏まえた広域処理の推進について」1202年5月21日 環境省リサイクル対策部

注3:「東日本大震災に係わる災害廃棄物の処理計画の工程表」1202年8月7日 環境省

注4:東日本大震災に係わる災害廃棄物処理の工程表(概要)環境省 H248月7日

注5:「岩手県災害廃棄物処理詳細計画(平成24年改訂版)」2012年5月 岩手県

注6:「岩手県災害廃棄物処理詳細計画」2011年8月30日 岩手県

 

  1 宮城県で契約変更された内容


 

 

 

河北新報 201294日 より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初

見直し後

差し引き

削減割合

 

石巻ブロックのがれき

685万トン

310万トン

375

万トン


54%

 

石巻ブロックの津波堆積物

280万トン

43万トン

237

万トン


85%

 

合計金額

1923億円

1482億円

441

億円


23%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亘里

86万トン

47万トン

39

万トン


45%

 

亘里の津波堆積物

85万トン

70万トン

15

万トン


18%

 

合計金額

543億円

492億円

51

億円


9%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合計金額

492

億円


26%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注1:石巻の見直し後の441億円の削減は、640億円を削減した後、199億円を追加したもの。

640億円+199億円=▲441億円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注2:109億円の追加

 

 

 

 

 

 

 

・がれきの引き受け36億円

 

 

 

 

 

 

 

・不燃がれき選別施設整備費 57億円

など

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注3:全体で492億円の減額と、109億円を新たに追加した。

 

 

 

 

削減総額では、▲393億円の削減 (▲20.4%